石上神宮フォトログ 山の辺の杜から
2018.09.15
つき草に衣染める
テーマ:境内

 

朝夕は少々涼しくなって来て、境内周辺の路辺に咲く露草の青い花色がいよいよ冴えてきました。

万葉の時代からすでにあって、当時は「つきくさ」と言い、「月草」「鴨頭草」の字があてられています。

花の色が着いて染色に用いられることから、「つきくさ」と名付けられ、花を集めその色を和紙にしみこませて藍紙を作り、模様の下絵に

使用し、染めつけた後は、水洗いをすると下絵は完全に消えてしまうと言うもので、現在までこれに代るものはないとのこと。

『万葉集』に9首詠まれていて、色がすぐに変るので、恋心のさめやすいたとえとして6首、花が朝開き昼には萎れる命短い一日花より

はかなく消える運命になぞらえた歌が3首あります。

「月草に衣そ染むる君がため まだらの衣摺らむと思ひて」(巻7-1255)・・・露草で衣を摺り染めにします。

あなたに似合う色模様の美しい衣を作ろうと思います。作者は不詳ですが、絶対に美しい人に違いありません。

つきくさのたとえのように恋心冷めやすいとかはかない恋、命など、なぜか心動くものがあって、憧れてしまうのです。

2018.09.13
身もそぼつ
テーマ:境内

 

そぼつとは「濡つ」と表記され、古くは「そほつ・そほず」と記され、意味は濡(ぬ)れるよりも雨量多く、ぐっしょり濡れる、中まで濡れ

とおる意味とされています。

この「そほつ」で想い起こされるのが『日本書紀』武烈天皇11年8月の条にある、影媛(かげひめ)が愛しい人を慕い、当神宮あたりから

奈良山まで追って行く時の歌があり、今の北の山の辺の道の地名が詠み込まれていて、石上・布留・高橋・大宅・春日・小佐保と過ぎ行

き、「・・・泣きそほち行くも、影媛憐れ」と結んでいる。

意訳をすれば、武烈天皇が好意を寄せた影媛であったが、平群(へぐり)の鮪(しび)とよい仲となっていることを知り激怒し、奈良山で鮪を

殺害、この状況に後を追った影媛は全身ずぶ濡れになって、悲涙目に溢れて歌ったとあります。

ひどい雨の時はいつもこの「そほつ」の状況が想起され、屋内に逃げて時を過ごすニワトリにもその衰れさをもよおしてしまうのです。

(何と心優しい人なのでしょう。)

2018.09.09
露は朝に置く
テーマ:境内

 

今朝の夜明けは秋気加わり、境内のすぎ苔は露を結んでいました。

そう言えば8日は露が凝って、白く見えると言う白露で、記録的高温の夏もようやく落ちつきを取りもどし、平年の新秋に近づいてきまし

た。

この朝夕の気持ちのよい涼しさを知ってしまうと、またぶり返す日中の暑さは、余計に身にこたえて疲労感、倦怠感が増すばかり。

なんでも気持の良いおもいをしてしまうと、後が大変です。

ここ2、3日の雨模様で疲労困憊(こんぱい)のすぎ苔も鮮やかな緑色をまし増して、喜んでいるように見えます。

2018.09.06
莢状(さやじょう)の実
テーマ:境内

 

何が写っているかおわかりですか。

細長いさや状のものは以前にお知らせした定家葛(ていかかずら)の実で、あの白色のプロペラのような花から、こんな袋果になるのは少々

驚きです。

藤原定家の霊が式子内親王のお墓につると化して絡んだという伝説に由来、古くは天鈿女命(あめのうずめのみこと)が天岩戸の前で鬘(かず

ら)にしたものは真拆(まさき)の葛(かずら)で定家葛のことです。

想像を超える植物の変化を見て、その多様化に無知を思いしるのみ。

更に驚くべきことに10~11月にはこの実が熟して裂開し、黒い小さな種が白い長い毛をもって、吹く秋風にまかせて飛んで行くので

す。更に冬に向かって葉が赤や橙や黄色になん枚か変色して緑の葉の中で、モザイクの美しさがあります。

その名の通り、優雅な語りの長い植物です。

2018.09.02
山菅(やますげ)押し伏せて
テーマ:境内

 

今、神宮の森の木陰では藪蘭(やぶらん)が紫色の小さな花を多数穗状にして咲き出しています。日蔭なので紫の色がより一層美しく目につ

きます。

この花はやがて11月頃には紫黒色の実となります。

山菅(やますげ)はやぶらんの古名で、万葉集に12首もあります。

古語辞典を見ると「山菅の」は①山菅の実からみ(実)にかかる。②山菅の葉が乱れて伸びるから「乱(みだ)る」にかかる。③山菅の葉が勝

手な方向に伸びるので「背向(そがひ)[背後]」にかかる。④「やますげ」の「やま」と同音を含むので「止(や)まず」にかかる。とややこしい枕詞となっています。

『集』の巻11-2477番歌、作者不詳にて「あしひきの名に負ふ山菅押し伏せて 君し結ばば逢はざらめやも」とあって、歌意は少々

過激で、山菅を押し伏せるように、あなたがわたしを押し倒して、契りを結ぼうとなさるようなら、決してわたしは逢わないことはない

わ、と相手の積極的行動を期待していたりする、山菅は美しい花のわりになかなか厄介なのです。