昔、布留川の上流から、一振りの剣(つるぎ)が美しい水の流れとともに、泳ぐように流れてきました。剣は流れながら、触れるものをつぎつぎに2つに切っていきました。
そのとき、川の下流では、1人の娘が洗濯をしていました。娘がふと頭を上げて川上を見ると、岩や木を切りながら流れてくる剣が目につきました。すばやく避けようとした瞬間、洗いすすがれた白い布の中に剣が流れ込んだのです。あわや布が切れたかと思いましたが、そのまま剣は布の中にぴたりと留まっているではありませんか。
こんなに鋭い剣が、布も切らずにその中に留まったことへの驚きは言いようもありません。娘はその不思議さにつくづく感心し、「これはただごとではない、神様のされることだ」と、さっそくその見事な剣を石上神宮に奉納しました。そして、剣が布に留まった所ということから、布留という地名ができたということです。
また、万葉集に「布留の神杉」と歌われている神杉にまつわる、つぎのような話も伝えられています。
昔、いその神の振る川(今の布留川)は、山深く、樹木が生い茂り、流れも美しい川でした。当時の人々の暮らしに欠かすことのできない貴重な川だったのです。
ある日、1人の女が白い布を洗っていると、上流から草木をなぎ倒しながら、泳ぐように流れを下ってくる細長いものが目につきました。みるみるうちに白布にすっぽりと包まれたそれは、よく見れば剣先鋭く、まばゆいばかりに光を放っている鉾でした。驚いた女は、自分の家に持ち帰るのをおそれ、川のほとりに立てて日ごとお祭りを欠かさずに行いました。そのおかげで、人々は日々平和な生活ができたといいます。
その後、鉾も雨風にさらされて朽ち果ててしまったので、その地に穴を掘り、鉾先を埋めて祭りました。すると、間もなくその地に杉が芽生え、天をもさすほどにすくすくと成長しました。そして、この杉が布留の神杉と言われるようになったということです。